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【レポート】延岡のジビエカレーを味わう

 

ジビエを食べるということ

 皆さん「ジビエ」という言葉を聞かれたことはあると思いますが、その言葉の意味をご存知ですか?

「ジビエ」とは、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を指すフランス語で、狩猟が盛んなヨーロッパでは、ジビエ料理は古くから貴族の伝統料理として発展してきた食文化だそうです。

ここ数年、日本でもジビエブームと言われていますが、単においしい食肉を味わう海外の食文化とは少し事情が違い、深刻な社会問題が背景にあるようです。

延岡は、海、山、川と美しい自然に囲まれ、シカやイノシシ、サル、カモなどの野生動物も多く生息しています。そして、近年では環境の変化に伴い、野生動物による農作物や森林の被害も深刻になってきています。

特にシカによる被害が1番深刻で、被害総額はここ5~6年、年間2千万円前後を推移し、農林業に携わる方たちの生活を脅かす事態となっています。自然と野生動物、そして私たち人間が共生するためにも狩猟による適正な個体数の管理が必要不可欠ですが、その多くは廃棄処分されているのが現状とのこと。

 

今回の市民活動は、そうした「ジビエ」を取り巻く延岡の現状をお話ししながら、一般的に敬遠されがちな「ジビエ」本来のおいしさをお伝えしたいと企画されました。

また、夕方からの開催ということもあり、参加者同士で気負いなく交流していただければと、エンクロスでは初のアルコール(ワイン)をいただきながらの開催となりました。

 

 

 

食わず嫌いが「おいしい」に変わるまで

8月4日土曜日、まだまだ日中の暑さが残る午後5時、参加者の皆さんが一人また一人とカウンター席につき始めました。年齢や性別もバラバラな計5名。

「こんばんは!」と元気にお出迎えされたこの日の主催者は、延岡駅近くのカフェ「さくら食堂」のオーナー、塩見みきさんです。

普段はご自身のお店で美味しい手料理や挽きたてのコーヒーを振舞われている塩見さんですが、エンクロスでは4月のオープン以来、ニットカフェや皮の工芸教室など、ものづくりを中心にマルチに市民活動を開催されています。

 

「今日はワインでも飲みながら、リラックスして楽しんでもらいたいと思います。」イタリアのマンマのような塩見さん独特の雰囲気に、皆さんの表情が緩みます。

「さくら食堂というカフェをしている塩見と言います。今回、この教室をしようと思ったのは…」と、今回の活動への思いを語られることからスタートしました。

 

 

塩見さんのご主人は狩猟免許をお持ちで、近隣のシカやイノシシなどによる農作物等の被害を防ぐための有害鳥獣捕獲と、同時に狩猟期以外は動物を守る保護活動もされています。

ご主人が捕獲してこられた動物のお肉を調理されることはあっても、野生独特の獣臭があるのでは?!という思い込みや、幼少期の記憶から長年口にされることはなかったそうですが、いざ食べてみると意外にも臭みなどは殆ど感じられず、自然の中で育まれた肉特有の弾力や、人の手のかかっていないナチュラルな美味しさに気づかれたとのこと。

それ以来、カレーやシチューなど自分なりのレシピで様々な料理を楽しまれているそうです。

「主人が常々口にしていた『柔らかい=おいしい肉とは限らない』という言葉の意味がようやく理解できたので、同じように誤解や偏見を持たれている方たちにも紹介したくて。」と今回の市民活動に至った経緯を語られていました。

そして、野生動物による被害状況や、「ジビエ」を食べることの意義などをお話しされ、参加者の皆さんも時に頷きながら、真剣に塩見さんの話に聞き入っていらっしゃいました。

ひととおりお話が終わると「まずはのどを潤しましょうね!」とノンアルコールのドリンクを皆さんにサーブされ、いよいよ料理開始です。

 

ワイン片手に大人の料理教室

この日の手順は、一次発酵済みのパン生地を参加者自身で捏ね、二次発酵の後にオーブンで焼き上げ、圧力鍋で煮込んだカレーとともにいただくというもの。

エンクロスのキッチンにはオーブンを備えたIHクッキングヒーターが完備されており、様々なジャンルの料理を楽しむことができます。

まずは塩見さんが一次発酵してこられたパン生地を各自で成型します。塩見さんのお手本を見ながら思い思いの形に整え、いざオーブンへ。

 

 

50分の二次発酵の後、180℃のオーブンで約10分間焼き上げます。パンの仕込みが完了したら、メインのカレー作りです。今回使用するシカ肉は、昨年の冬に塩見さんのご主人が捕獲し冷凍保存されていたそうです。

 「シカ肉は、低カロリー、高タンパク。素早く解体して血抜きをすれば臭みは殆どありません。」

「今日はカレーですが、シチューでもおいしいですし、しばらく牛乳に浸してカツレツで食べるのもおすすめです。」

「カレーはご家庭の作り方と同様で構いませんが、今日は私の作り方を紹介します。肉はワインや人参、玉葱やスパイスと一緒に漬けておきます。肉にとろみ付けの小麦粉をまぶして焼き付けます。カレールーを使う場合、小麦粉は使わなくて構いません。」

「今日のルビー色のワインは、イタリアのトスカーナのキャンティワインで、ハーブを利かせた肉料理に合うそうです。トスカーナでは普通にウマやシカ、イノシシなどが食卓に上がるそうですよ。」

シカ肉を手早く焼き付けながら、調理法の説明、ご主人から伝授された動物ごとの狩猟方法やワインの話、日頃されている市民活動のこと。

時にワインやドリンクを勧めながら手際よく調理を進められる塩見さん。

そして、グラス片手に塩見さんのお話に耳を傾けながら調理の様子を見守られる参加者の皆さん。

カウンターの周りには肉が焼ける音とスパイシーな香りが漂い始めました。そのほかの材料もすべて入れたら圧力鍋で約20分煮込みます。

 

 

パンやカレーが出来る間も楽しい会話や笑い声は途切れることなく、和やかな雰囲気のなかカレーが完成し、パンにも程よく焦げ目がつきました。

鍋の蓋を開けるとキッチンにはスパイシーな香りが充満し、皆さんお待ちかねの実食です。2枚の小皿にパン用のオリーブオイルと岩塩も用意されました。

焼きたてのパンをちぎるとフワッと湯気が立ちのぼり、皆さんから一斉に「うわ~、おいしそう…」と声があがっていました。

まずはカレーをそのまま、パンはオリーブオイルや岩塩でいただきます。

「肉の臭みは全く感じられないし、とっても柔らかい。」

「スパイシーでおいしい!」

「パンがモチモチしてるね~。」

 

 

パンにカレーをつけて食べたり、ワインを注ぎ合ったりしながら思い思いの感想を語り合い、皆さんきれいにお皿を空けられました。

「ごちそうさまでした!」皆さんの満足気な様子に「また今回のようなおいしいイベントをしたいですね。次はランチタイムにでも。」と塩見さんの表情もほっと緩んでいました。

終始和やかに、そして緩やかな時間を過ごされた参加者の皆さんは、スパイスの香りがほんのりと残るキッチンを後にされ、終了後のアンケートでは「とても楽しく、勉強になりました。」との感想が多く寄せられていました。

 

 

 

現状を知ることが動物や環境保護の第一歩

シカやイノシシなど、野生動物を食することにかわいそうと思われる方も少なくないでしょう。また、野生臭が苦手とおっしゃる方も多いかもしれません。

私もその一人でしたが、動物や自然保護の観点からも、ジビエを取り巻く現状を知り、その命に感謝し大切にいただくことに意義があるのでは、と考えさせられたこの日の市民活動でした。

これからもエンクロスのキッチンが、市民の皆さまにとって、楽しくて美味しい食と学びの場になるよう、様々なイベントを開催していきたいと思います。

担当:落合