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【インタビュー】乾久美子建築設計事務所 山根 俊輔

延岡駅周辺整備事業、エンクロスの建築設計にデザイン監修者として携わられた乾久美子建築設計事務所の山根俊輔さんのインタビューをお届けします。どのようなコンセプトでこの建物が出来上がっていったのか、建築の見どころを伺いました。

 

 

『人がいないということはなくて、いるけど見えないことが解決すべき問題なんじゃないか?』

―まずは、山根さんのご経歴を教えて頂けますでしょうか?

 

山根:出身は広島県で広島大学大学院まで出てから、乾事務所に入りました。

 

 

―数ある建築事務所の中から、乾事務所を選ばれた理由がありましたら教えてください。

 

山根:僕が入ったころ、乾事務所は商業施設を主にやっていました。僕が入社して一番、最初にやったのがTASAKIという宝石店のファサード(店の外装)でした。入社当時の乾事務所はクリスチャン・ディオールやルイ・ヴィトンなどの店舗のファサードを比較的多くやっていました。

だけど、乾が書いていた文章から伝わる建築に対する考え方は、商業だけにとどまらず、建築全体に通じるようなことを常に書いていて。だから商業施設も含めて今後色々な建物に挑戦して、面白そうだなと思いました。

 

 

―完全に読みが当たっていらっしゃいますね。乾事務所に入られて、プロジェクトに対する姿勢など事務所の特徴だと思うところはありますか?

 

山根:乾の極め細かさが、役所の方にとっては安心できるのかもしれないです。プロジェクトの最初の入り口は、様々な方の立場で考えていますね。「こんなんかっこいいからどうだ!」というのもなくはないですが、周囲の環境や関係する人の思いを想像しながらプロジェクトがスタートすることが多いです。

 

 

―どちらかというと、みんなの意見を一番に考えて、まとめるということでしょうか?

 

山根さん:そうですね。だから今回も、市民アンケートやワークショップだけでなく、JR九州さんの思いも考えて、駅舎と高さを揃えてたりとかしていて。あとはオープンして、ブラインドが上がってみないとわからないですけど。まちの賑わいに寄与する建物を作ってくれっていうことだったので。

(※インタビューはオープン前に実施。)

 

 

―それが建築のコンセプトでしたよね?

 

山根さん:「延岡の駅前は賑わいがない」と皆さん言われますが、意外と延岡の人、建物の中にいっぱいいるじゃないですか。

 

 

―そうですね。僕も引っ越してきて感じていました。外は閑散としているけれど、飲食店入るとたくさん人がいて、混んでて、楽しそうにしている。

 

山根:思ったのは、「人がいないということはなくて、いるけど見えないことが寂しさのようなものに繋がっているなっているんじゃないか?」ということです。

 

 

―それがキーワードになっていて、それを見せようとしたわけですか?

 

山根:そうですね。建物の中で楽しそうに過ごしている人が外からも見えて賑わいが感じられるように。

 

 

▲施工前のイメージ図

 

 

―こんなにオープンな建物は延岡にないですよね。

山根:ないと思います。宮崎暑いのによくここでやるよな、っていうのはあるかもしれないですね(笑)。

 

 

―そうですね。暑いから、外から見えないようにしているのかもしれないですね。

 

山根:あとは自称シャイな方?が多いような気もします。最近は顔見知りの方が多いからどうなのか?はちょっと分からないですけど…。

 

 

―延岡のこのプロジェクトにはいつ頃から関わられたのでしょうか?

 

山根:最初は2011年、約7年前です。延岡市主催のデザイン監修者選定プロポーザル(公募)っていうのがあったんです。何年間か続くプロジェクトということが想定されていたので、何年間か積極的に動ける中堅から若手の建築家のなかで、5社ぐらい指名されていて、そのうちの1社が、乾事務所でした。

 

 

―そのころ完成時期は決まっていたのですか?

 

山根:ぼんやりとしか決まってなかったです。駅前で何するかも決まってなくて。僕らが最初プロポーザルで提案したのが、駅前では何にもしないっていう(笑)。延岡の街の中心はすでに市役所の方だから。あっちでやりましょう、というような。駅は奥座敷のようにするのはどうかというような提案をしました。

 

 

―今回って企画を考えるところから、ワークショップたくさんやられていたじゃないですか。ああいうのも初めてだったのですか?

 

山根:乾事務所でやったのは、初めてです。

 

 

―市民と一緒に考えるみたいなのも?

 

山根:そうですね。最初は戸惑いましたけど、スタジオLの山崎亮さんがいたので。山崎さんがコーディネートしてくださっていたので、安心して参加できました。

 

 

―山根さんが7年ぐらい関わられていて、延岡の特徴だなと感じたことって何かありますか?

 

山根:延岡の方は自分たちの特徴というか、性格を言うじゃないですか。例えば、「延岡市民は飽きっぽいんだよ」とか言っているんだけど、結局、7年間もこのプロジェクトに付き合っている方がいて。本当かな?っていう感じがしますよね。逆に延岡のみなさん、とてつもなく粘り強くないですかって(笑)。

 

 

―私も環境としては、長い付き合いを育む環境だと感じています。

 

山根:そうですよね。シャイで飽きっぽいから、こういうのを作っても上手くいかないかもしれないと言いながらも、7、8年付き合ってくれるというのが、面白いなって思いながらやっていました。

 

商店街の人に「ここ空いているよ」って言われ・・・風呂なしの事務所で(笑)。2階で寝て、1階が事務所になっていました。

―そうですね。山根さんは一時、延岡に住んでいたんですよね?

 

山根:サンロード栄町に住んでいました。エンクロスの設計を延岡設計連合と一緒にやっていて、「現場に来て一緒に設計をしましょう」と言ってもらえたので、住み込みで働くことになりました。ワークショップとかあったのでいて良かったと思います。約7~8ヶ月ぐらいですかね。物件探しの時は、商店街の会長がすぐに空き店舗を一つ指差して「ここ空いているよ」って言われ、乾が「山根はこういう所が好きだよ」って言って。気づいたら決まってました(笑)。安かったというのも大きかったですけど。風呂なしの事務所で(笑)。2階で寝て、1階が事務所になっていました。

 

 

▲山根さんが住まれていた事務所兼住居

 

 

―どんな感じでお仕事していたんでしょうか?

 

山根:主に設計連合の若手2名と、設計する前に、参考になりそうな全国の施設を調べて、得た知識を設計連合のメンバー全体に発表するというプロセスを踏んでいました。2週に1回か、1週に1回ぐらい計10回ぐらいやったと思います。そこでプロジェクトの進捗と、その参考事例を紹介というか、勉強会的な要素を入れつつやっていました。

 

 

▲事務所での発表会の風景

 

 

―住んでいて、すごく楽しかったことってありますか?

 

山根:自転車での散策ですね。大体朝起きて、方財に行き、方財から祝子川まで行って、祝子川で本読んだ後、おぐら食べて帰るっていうのをよくやっていました。

 

 

―祝子川って栄町から遠くないですか?

 

山根:旭化成からちょっと行けば、結構良いとこあるんですよ。自転車移動はものすごく良かったですね。川がいっぱい通っていたり山に囲われているので、少し走ると雰囲気変わるし、車だとあんまり分からないですけど、自転車だとすごく体感できる。

 

 

―山が見えるのはいいですよね。駅の東西自由通路も山が見えて綺麗ですよ。

 

山根:結構いいですよね。南北の旭化成の煙突も両方見えますしね。

 

 

―最初に来た頃と、延岡は変わっていますか?

 

山根:どうかな。高速道路がその間に通ったんですけど、劇的に変わっているっていう感じはないと思います。ただ、例えば、幸町商店街のアーケードがなくなったりとか、市役所が新しくなったりとかっていうことを考えると、いろいろ変わっていますね。

 

 

―延岡の方との繋がりという点ではいかがですか?

 

山根:個人的には色々あって、例えば商店街の方が、最初はあまり僕たちよそ者に対して懐疑的だったんです。最初僕らが来た時は、「おまえらに何ができるんだ」みたいな雰囲気だったんですけど、ワークショップを経て、仲良くなっていって、延岡に住んでいる時には毎日お風呂を貸してもらえるほどの関係になっていました(笑)。今はもう延岡の父親と呼べる人もいます。全体的な協力体制とか一体感は、僕たちが来た当初よりはあるのではないかと思います。

 

 

中に入っているヒトやモノができるだけ映える様に、可能な限り建築を背景にしたかった

―改めて伺いたいのですが、ここの建築のコンセプトを教えて頂けますか。

 

山根:市民ワークショップでもそうですし、その前に行われていた市民アンケートでも駅でやりたいことというソフトの要望がいっぱいあって、僕たちはハードを設計するからハード的な意見がないかなと探していたら、「延岡駅舎と空の境界線、スカイラインがきれいで愛着がある」という意見がいくつかありました。確かにそうだなと思っていて、駅の東側には高い建物がなくて、晴れた日には、本当にきれいなんです。

駅舎も建て替えでなく、改修して既存駅舎を再活用することになって、JR九州さんの改札の前にエンクロスを建てるということになり、市民に親しまれていた駅舎と駅舎がつくるスカイラインを引き継ぐような建物がという形が決まっていきました。最初、高層にするという話もあったのですが、市民の方や交通事業者の意見や予算などを全て考慮すると、この形になった感じです。

 

 

―そんな中、デザイン的にこだわったところはありますか?

 

山根:中に入っているヒトやモノができるだけ映える様に、可能な限り建築を背景にしたいというのが、大きかったです。建築がピカピカに仕上がっていると家具や中で活動する人の印象が薄れるんですよ。建築は、ラフな雰囲気で背景となることを目指しました。

 

 

▲天井や梁はコンクリートのラフな雰囲気

 

 

―とてもかっこいいのですが、引いてるつもりなんですね?

 

山根:引いてるつもりです(笑)。中にカフェがあったり、待合所があったり、キッズがあったり、図書もあって小さいながらも中身が多様じゃないですか、だから建築の枠をそれぞれの中身に合わせて、形や仕上げを変えていくと、とてもごちゃごちゃしちゃした雰囲気の駅になってしまうので。

 

 

―そこで統一感がある四角い枠に、全部囲まれている。

 

山根:場所、場所で、中身がパッと映えてくるようにしています。

 

 

―その中でも等間隔の四角い枠じゃなくて、リズムがあるじゃないですか、微妙に柱とかズレてるじゃないですか、そこがすごいなって。

 

山根:中と外を繋げたいというのが根本的にあって、森や林みたいに程よく囲われているけど、外と繋がっている雰囲気になるように考えていました。

 

 

―枠は単純な四角じゃなくて、さらに細かくズレている。あれは、リズム出すための「比」などがあるのでしょうか?

 

山根:黄金比のようなものはないですが、構造の安全性とJR駅舎との相性をみながら柱・梁のサイズと間隔を検討していました。これについては結構早く決まりました。

ただ、中身がまだ決まってなくて、後から階段がここにあると良いよねとか、階段をこっちに付けると外の通路が狭くなっちゃうとか、通路を確保しようとすると今度は室内が狭くなっちゃうなどなど。だから、最初に柱と梁という構造的なものが先にあってそれをいろんな人たちと意見を出しながら、ずらしたり動かしたりしていました。

 

 

―自動ドアがとても大きいですよね?

 

山根:確かに大きいですね(笑)。印象を変えたかったっていうのは、あるかもしれないです。特にキッチン側が大きいですもんね。逆にカフェ側の自動ドアは小さくしていて、座席に暑い空気や冷たい空気が入りにくくしています。使い勝手と雰囲気を絡めて考えています。

 

 

―基本的には黒い枠が動く場所ですか?

 

山根:そうですね。それについては結構成功したと思っています。まず分かりやすい(笑)。これだけガラスがあると、普通どこが開くか分からなくなっちゃって、使う側も困ることが結構あると思うんですけど、黒にすることでそれが分かりやすいのと、外から見たときに家具がランダムに配置されている感じと合わさって、結構綺麗に見えるなと思っています。

 

 

▲開く窓の枠(サッシ)は黒色で構成されている

 

 

―細部にこだわったところはありますか?

 

山根:天井とサッシですね。サッシは背景になるように、天井は見上げた時に、ラフなんだけど綺麗に見えるように照明を埋め込んでみたりして気を付けていました。

あと気を付けていたのは、駅だからいろんな所からいろんな人が来る、東西自由通路から人来たりとか、改札から来たりとかするから、外の人の動きと中にいる人の動きをよく見える様にはしたいと思いました。

 

 

▲外からも中の人の動き、賑わいが見える

延岡にもこういう建物があると自慢してもらえたら、嬉しいですね。7年間のプロジェクトの重みは乗っかっています。

―ここまで外からも見られている感があるところ、他に延岡ではないと思うので、見えていることをポジティブに捉えられる場所にしたいですよね。

 

山根:市民ワークショップでもそれに近いお話がありました。ひっそりと落ち着いた場所もよいのだけれども、延岡にはお洒落して集まる場所がないんだよねって話していました。

市民ワークショップをやって、期待してくれている人もいっぱいいらっしゃったと思うので、建物でがっかりさせるわけにはいかないと思いましたね。延岡にもこういう建物があると自慢してもらえたら、本当に嬉しいですね。7年間のプロジェクトの重みは乗っかっていると思います。

 

 

―どんな感じで使ってほしいとか、どういう風になればいいなというのはありますか?

 

山根:目的があっても無くても、気軽に行ける場所になるといいなと思います。駅って元々、目的のない通過点のようなもの。どこかに行くための施設。空いた時間に、ちょっと早めに行って少しだけ立ち寄るとか、駅着いて帰り際に寄るとか。あとは時間の空いた時間に来てもらうとか、色々あると思います。

 

 

―ここから町に繰り出してほしいのですが、その辺りは思うところありますか?

 

山根:プロジェクトの最初からその話はあって、エンクロスが完成してすぐの話ではないと思うけど、今、この建物もできて何となく、街全体の協力体制整いつつあるところだから、それが形になるのはもうちょっと先なのかなと思ってます。

 

 

―賑わいをここのために作るのではなくて、町のために作るのが役割であり、ゴールと思っています。

 

山根:エンクロスに人を集めるだけでなく、そこから街にみんなが流れていくのが大切ですよね。ここで完結するより、ここでコーヒーを買って、今山大師や町に行ってほしいですね。エンクロスで本を読んでいて、お腹空いたら商店街のあそこ行ってみようというようとか、偶然知り合いと会って一杯飲みに行こうみたいな感じで。エンクロスの魅力と街の魅力が掛け合わさっていくといいですよね。

 

 

―最後に、これで建てる側としては、プロジェクトが終わってしまいます。それは寂しくないですか?

 

山根:めっちゃくちゃ寂しいですよ。就職してからの建築人生8年のうちの7年間が延岡なので、延岡がない生活が想像できず怖いです(笑)。

 

 

―最後に延岡に対して何かありますか?

 

山根:実際に延岡に住んでましたし、社会人になって地元に帰るより、延岡に来ているほうが何十倍も多いので、ただ建物の作っている感覚よりも、もっと深くかなり気持ち入っていたので、本当に良くなってほしいですね。

今からよくなっていくところを見れないので、それはエンクロスの皆さんを含めこれから街に関わる全ての方々にバトンタッチしますね。今後も1年に1・2回くらいは来たいなと思っています。これから駅周辺や街が変わっていくと思うので、そこに関われる人は羨ましいなと思います。

 

インタビュー:中林 撮影:佐藤 編集:中林